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2008年05月30日 (金) | 編集 |
「お前にあんな芸当が出来るとは思わなかったぞ。」

カメラの死角でビレッタ先生が僕に話しかける。

「そうですか・・・・・。」

褒められても嬉しいわけもなく、僕は沈んだ声でそれだけを返した。


写真を貫いたとき、兄さんその人を貫いたような気がして苦しかった。
でも、そんなことを奴らに悟らせてはならない。

「ちゃんと、刺客らしく振舞えてましたか?僕。」

笑って言おうと思ったけれど涙がほろりとこぼれた。

「ああ、お前の人間性に対する評価は落ちる所まで落ちたようだが、あれで疑う奴はいまい。迫真の演技だったよ。でも・・・。」

ビレッタ先生は泣き続ける僕の頭を抱えて辛そうに言った。

「お前はこんなに良い子なのにな。すまない。あんなことを言って。
それでもお前を守るためにはこの方法しかなかった。」

・・・わかってますよ。
あんな機情の中で、この人だけは何か違った。
この任務を早く終えて戦場に戻りたいと言っていたのに、危ない橋を渡ってまで僕を気にかけてくれる。

「私はな、今回、本当に驚いた。
・・・ほら、お前がここに着たばかりの頃、芝居なんて全く出来なかったろ?」

ああ、そうだった。
何故今僕は、あんなふうに芝居が出来るのだろうか。

「あの頃のお前はどこか人形じみていて、感情のカケラも感じられなかった。」

そう、以前の僕は帝国の人形。
殺気と狂気だけを抱いて機械のように、ただ任務を遂行する操り人形。

「でも今お前は泣いて笑って喜んで・・・自分の意思でつらい思いも飲み込んで生きている。」

生きる・・・生きるって何だろう。
以前の僕にとって生きるということは、死なないでいるということぐらいの意味しかなかった。

「お前には暗殺者としての苦しい道のりが続いている。本当は感情なんて捨て去ってしまった方が楽なのかもしれない。でも、それでも私は。」

普通の子供のような顔をして幸せそうに笑うお前を見れて嬉しかったよとつぶやいてビレッタ先生は僕を抱きしめ続けてくれた。
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2008年05月29日 (木) | 編集 |
「どうした?」

兄さんが心配そうに話しかける。
いつもより食の進まない僕を見て心配になったようだ。

「何でもないよ。あ、そうだ。今日サービスデーだったからDVD借りてきたんだけど夕食終わったら一緒に見ない?」

にっこり笑って言えば兄さんは安心したようにうなずく。




僕はいずれこの人に憎まれる。

優しい優しいこの人に憎まれる。

やっと居場所を見つけたと思ったのに。僕も幸せを望んでもいいんじゃないかと思えたのに。


監視カメラはうっとうしいけれど、僕はあまり気にしてなかったし、兄さんに対する罪悪感もなかった。
それどころか機情の奴らに僕の幸せを見せ付けるのはひそかな僕の楽しみだった。

お前らが悪魔だと、化け物だとののしる僕を見ろ。
僕はこんなに幸せだ。
お前たちとは違うんだ。
一生光の当たらない場所でうごめかねばならないお前たちとは違うんだ。
そんなゆがんだ快感さえ持った。

でも兄さんから見ればこれは裏切り行為。
プライドの高い兄さんが、一日のほとんどを監視されていたと知ったらどんなに怒るだろう。

他人を入れず、くつろぐはずの家の中まで監視されるなんて、兄さんじゃなくても嫌だろう。




妹の存在。
これは知っていた。

でもゼロが妹を本当に愛していたとは思っていなかったので、僕の中ではいつのまにか忘れ去られた存在だった。
だって本人に会ったことも無いし、任務にも関係ない。どうでもいい存在。


そもそも僕は家族というものを知らない。
だから彼の過剰な愛情が、まさか妹の特殊な環境から来るものとは思わなかった。
あれが普通の家族のあり方なのだと思い込んだ。

でも違った。
僕はただの身代わりなのだと思い知らされた。

僕を見て欲しい。
妹じゃなくて。

でも今僕に向けられるこのまなざしも本当は妹のもの。
そんなのは耐えられない。
心が引き裂かれそうだ。

モニターで観察していた奴らは僕の馬鹿さ加減をあざ笑っていたろうか。
化け物のくせに勘違いして舞い上がって。
本当の家族も知らないくせに、哀れな奴だと。

それでも僕がすがれるのはこの偽者の絆しかない。
愛情も寂しさも、僕はもう知ってしまった。
人形には戻れない。戻りたくない。

この絆を壊したくない。例え偽者であったとしてもこの兄を手放せない。
いつかくる最後の日まで。


2部に続
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